方言で打ち解けるカリスマ車内販売員 茂木久美子(29)(Copyright 2009 SANKEI DIGITAL INC.)(産経新聞) - Yahoo!ニュース
7月6日午前10時8分。東京駅を滑り出した山形新幹線「つばさ号」の車内に耳慣れない方言が響いた。
「コーヒーはあったかいのど、つったいの、どっちがいいべ」
ビジネスマンは読んでいた新聞を脇にずらし、団体客も和やかな会話を中断させて、一斉に視線を集中させた。声の主は、黒髪をキュッと束ね、紺のエプロンに緑のスカーフを巻いた車内販売員、茂木久美子だ(29)。
「ミルクはつけっぺか」「砂糖は何本いんべ」。山形弁で接客を続ける。車内の空気は変わり、彼女が通り過ぎる席の周囲は、ドッと笑いがおきる。
車内販売は天候や時間帯などによって売り上げが左右されるが、東京-山形駅間2往復で平均売り上げ20~25万円という。茂木はその倍の50万円を1日で売り上げた伝説を持つ。「カリスマ」。1300人いる東日本管内の車内販売員の中で、こう評されている。
なぜ、方言で接客をするのか。「だって社内マニュアルでも禁止されてないもの」。イタズラな笑顔を浮かべる。
方言を始めたのは、8年前。それまで言葉の端々で不意に出る山形弁を「恥ずかしい」と思い、隠すように努めてきた。だが些細(ささい)なことで発想を変えた。
いつものように方言が出てしまった後、乗客から山形の名所を尋ねられた。方言が出なかったら決して尋ねられることはない質問に「アテンダントとして標準語じゃなくてもいいんだ」と感じた。以降、方言をためらわなくなった。
変化はすぐに肌で感じられた。肩ひじを張らない方言は意外にウケて、乗客がどんどん話しかけてくるようになった。
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「実は彼女、ギャルだったんですよ」というのは上司の日本レストランエンタプライズ(NRE)の近藤昌昭だ。高校卒業後、地元での就職先を探したとき、山形で初めて募集する販売員のポスターを目にした。客室乗務員にあこがれていただけにすぐ飛びついた。
黒髪や化粧、香水など規則が厳しい車内販売員の世界。面接した上司は「どうせ来ない」と踏んで髪を黒に染め直し、マニキュアもしないことなどの多くの注文をつけ、初出勤日を告げた。だが…。いわれた通りの姿形に変え、茂木はやってきた。
150キロほどのワゴンを揺れる車内で片道3時間引き続ける体力が要求されるなど、見た目以上に過酷な業務。3日と持たずに辞めていく人が多い中、10年も続けている。
「天職なんですかね。一度も辞めたいと思ったことはありません」
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カリスマといわれるゆえんは、まだある。進行方向にワゴンを進める際、ワゴンを引いて車内を回る「バック販売」。乗客にワゴンをぶつけ、「どうせぶつかるなら私の方が痛くないだろう」と始めたが、意外な効果が生まれた。
背中だと通り過ぎたら声をかけ辛いが、バック販売で顔が向いていると目線で訴えてくることがあり、引き返すことも可能だった。
何より乗客の様子が把握でき、網棚の荷物など車内全体が見渡せる。「自然と目的や欲しているものが分かってくる」という。
手元に何も持っていないビジネスマンなら、飲み物がほしいかもしれない。子供連れなら、お菓子が必要かも、団体客ならビールかな…。いろいろな想像をしながらワゴンを引く。最初に全車両を回った段階で予想を立て、次には90種類ある商品の配分をガラリと変える。
予想した乗客の前を通る際には、お釣りの小銭を用意することも忘れない。片道で車内を3往復するのが平均だが、茂木は7往復。近藤は「だれもが売れないモノも茂木なら売れる。発想力のたまものですかね」と話す。
茂木の下には、さまざまな乗客が集まる。友人との死別やいじめの相談なども受ける。ワゴンを止め、じっと耳を傾け、一緒に涙を流すこともある。酒におぼれる乗客がいれば、「これで最後にすっぴゃ」と諭す。
「サラリーマンは小遣いの中からお弁当を買ってくる。買ってくれなくていいんです。話をしてドラマが知れれば、それだけでいい。夢ですか。もっともっと人と出合いたいですね」=敬称略